カメリア・カレッジ 教育講座(第9回)平成23年5月7日


カメリアカレッジ 教育講座の開講(第9回) ≪カメリア≫

はじめに
2011年5月7日、特別養護老人ホームカメリア(東京・江東区)でカメリアカレッジで教育講座が開講されました。カメリアカレッジは月1~2回程度水曜日の夕方に開講していましたが、地域の方がお越しになりやすい時間をと考え土曜日の午後の開講となりました。教育講座は1月~5月まで一ヵ月につき2回のペースで開催されます。この講座開講にあたっては旧亀島小学校の初代校長である三浦一郎先生の全面的なバックアップを受け、講師の調整や全体の流れなどのプロデュースをしていただきました。

今回は板橋区教育委員会元教育長の松澤剛先生による「中高一貫教育の現状と課題について」と題した講演が開催されました。地域町内会の方、そして今回は数名の新人職員が参加しました。

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講師紹介:松澤剛(まつざわ・たけし)。 昭和32年、東京学芸大学卒業。教員。57年板橋区指導室長。平成4年板橋区教育委員会教育長を務める。現在は東京教育研究所の研修主任。

はじめに松澤先生から「このような地域や施設の方との学びの機会をもてることは非常にすばらしいことです。このような機会は大変めずらしいので是非継続してください。本日は、中高一貫教育の件、東日本大震災の件について考えていきます。東日本大震災でも江東区が被害を受けたのでそのことにも言及します」。と述べられ会はスタートしました。

中高一貫教育のねらいについて

  • 中高一貫教育:中学3年、高校3年、大学4年が日本の教育システム。中学と高校の3年ずつを継続してじっくり学ばせる教育。私立では教育内容の充実などを目的に多数の学校で一貫校を実施、現在では公立校でも導入されている。
  • 都立高校は? 「都立高校を子供たちがいきたくなる学校にしてください」。必ず質問される事項です。これは都立高校が非常に期待されているから。これまでの都立高校が学力を付けられなかったこと、学校への誇りがもてなくなったことが要因。
  • 1969年「学校群制度導入」:この制度導入が都立校の学力低下を引き起こした原因といわれている。学校群制度はもともと学校間の学力の平均化を狙いとしていた。しかし好景気の中で、学力の向上を求める家庭・生徒は私立高が積極的に生徒募集するようになった。
  • 1981年「学校群制度の廃止」:グループ選択性を導入。
  • 2005年「グループ選択制は廃止」:これで希望する高校に入学することができるようになった。このためにそれぞれの高校が特色ある学校づくりに取り組むようになった。
  • 2007年「中高一貫教育校」発足:白鴎高等学校・付属中学校。特色ある学校づくりの一貫として進学校設立や中高一貫教育校の発足。

都立中高一貫教育校について

  • 目的:6年間にわたる一貫した教育活動を計画的・効率的に行い、学力や教養を身に付け将来、社会のさまざまな場面・分野でのリーダーとなりうる人材を育成する。
  • 類型:「中等教育学校」(5校)、「併設型の中学校・高校」(6校)、「連携型中高一貫教育校」(6校)
  • 進学高には大きく変遷を遂げる学校も誕生できたが、芸術系の高校、運動系の高校といった特色をもって生徒を募集・入学させる学校も登場してきた。このような背景のなかで中高一貫教育の考え方が生まれてきた。
  • 目的:6年間の一貫教育を継続的に実施し、社会に有用な人材を輩出すること。中等教育学校(小石川中等教育学校ほか)、併設型中学・高校(両国高校・付属中学校ほか)、連携型中学・高校(広尾高校と広尾中学校ほか);インターネットで優秀な生徒は入学できる。
  • 九段高等学校:千代田区が設置。九段高等学校は、中学で定員すべてを入学させている。千葉県の房総半島に学校独自の寮をもっており、寮生活を行っている。自らを律することのできる生徒でなければ学校生活が継続できないようになっている。
  • 以前は平等でやる気があれば大学まで入学できたが、現状では教育の二極化が進み教育費の多寡により入学できる大学が決まりやすい傾向が顕著になっている。これをもとの教育機会の平等化を図るために公立校が寄与しようという動きである。
  • 私立出身の優秀な学生が公立校の教職に就いた場合つまづくことがある。落ちこぼれた学生の気持ちが汲み取れない、配慮できないこともひとつの要因であるように思われる。
  • 気持ち、志を大切にした教育を行うために都としては一貫校を推進する方針となった。

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東日本大震災発生により首都圏の学校による対応について

  • 今後の災害の学校の対応:東日本大震災。住まいが幕張のために液状化現象になって家が傾いたところもあった。地域特性のために罹災についても異なる傾向がある。
  • 東日本大震災では地震での死者はほとんどおらず、津波、火災での死者となった。首都圏では、火災、停電(電車の不通、携帯電話が通話できない)これらが都市での災害被害となることがわかった。
  • 首都圏での「帰宅難民」は原則として都立高校に避難すること。その他の学校には避難しないようになっている。
  • さまざまな区の校長からヒアリングをしたところ以下の意見があった。
  • 施設で地震が起こったとき、どこに避難するのか? 地域の方が避難を求めてきたときにどうするのか? 情報連絡の見直し。行政については防災無線で各学校に被害状況の確認を実施する。教育委員会、防災担当部署等さまざまな部局からの被害状況の照会があり、対応に苦慮した。学校側の情報提供の一本化が必要。
  • 情報発信・収集:電話、携帯電話が止まったときにどうするのか?;防災無線のある学校は行政との情報受発信で対応できるが、無線のない学校では対応に右往左往していた。ここで役割を発揮するのが地域。
  • 災害時の学校の対応:避難所の在り方。避難所はだれのためにあるのか?帰宅難民も対応するのか? 今回の震災では学校ごとに対応がまちまちだった。校門でシャットアウトした学校、受け入れた学校、収拾がつかずに対応せざるを得なかった学校。
  • 豊洲(江東区)のある小学校:ふだんから企業、地域と連携をしている。大規模災害が発生した場合には地域の方が学校に来校し、地域の方がリーダーになり、あらかじめ決めておいたリーダーが役割をこなしているところもある。
  • 収拾のつかなかった学校:教室への帰宅避難民の流入により収集がつかないようであった。学校の対応はまずは体育館への誘導が必須である。
  • 学校の責任者:「校長」。避難所の責任者は校長にする。校長の判断の差により対応の差が生まれる。校長不在時は副校長。ひごろから被害を想定したシュミレーションが必要。
  • 学校近くの地域の方に町会の方に鍵をあらかじめ渡しておき、何かが発生したときには即応できるようにしている。
  • 避難所での対応:地域の方による救護・対応が必要。トリアージについては地域の方が行うこと必要。あらかじめさまざまな事象(被害)が発生したときに対応を定めておく必要がある。
  • 今回の対応の教訓は、監督官庁への電話等の連絡が困難。校長による指示がもっとも適切であるが、そのために事前の打合せ、協議が必要。
  • 地域特性を把握すること。学校に子供がいる場合には、地震が起こったときには自宅に返すことが原則であるが、地震でいちばん安全な場は学校であることもある。地域で事前に相談、協議が必要。
  • 学校によって対応が相当異なっていたことを実感した。これで学校の生徒への姿勢が反映されていたように思う。

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  • ≪質問≫学力が平均化することそのものが間違っているのではないかと思うがいかがか?また学力が低下していることを感じるが如何か?学習意欲を高めるための方法はどのようなものか? 震災については、たまたま発生があの時間だったので誘導が無事にできたが、違う時間だったらどうなったのか思うが如何?
  • ≪回答≫学力低下の問題は恵まれすぎていること、子供に失敗の体験、苦労の体験がないことが問題ではないかと思う。学校で喧嘩をする姿がない、家庭学習をしている家庭が少なく、塾で学んでいる。これはしつけの問題ではないか。子供のペット化、愛情の履き違えがあるのではないか? 学校、地域で家庭教育をフォローしていくことが課題だろうと思う。地域との連携が大切だと思う。震災では、若者がボランティアに積極的に向かうことが大勢見受けられた。いまの若い人が悪いのではない。経験の場がないことが問題。避難所の件については、区から一方的な通知はくるが住民側からの情報発信の方法がないことが問題。避難場所について地域の人はどこに避難すべきかは決まっているが、そのことを知らないことが問題。
  • ≪質問≫小さい子供がいるので関心をもって伺うことができました。中高一貫教育が良しとするのでしょうか?悪いという立場なのでしょうか?一貫校が増加することがいいのでしょうか?
  • ≪回答≫一概に善し悪しでは判断できない。エリート養成としては適切。特色ある学校づくりができることがいいことだと思う。費用は都立高校並み。多様であることが確保されつづけるようになるでしょう。
  • ≪質問≫結局、学校では箱、形ではなく、教員の質、授業の質の問題ではないでしょうか?
  • ≪回答≫魅力のある先生をどうやって養成するかが、東京都の課題である。名物先生、おもしろい先生が生まれなくなった。教育の世界では教員の資質を高めることが一番の課題となっている。子供の能力に合わせた教育ができることがもっともよいことです。
  • ≪質問≫市民の立場で教育の質の向上に寄与する方法はあるのか?
  • ≪回答≫学校・校長に「このような教育をしてもらいたい」と発言してもらいたい、その発言に対しては協力をしてもらう。この関係を大切にしてもらうと充実してくることと思う。

(おわりに)
松澤先生は、都内の公立校で導入が進んでいる中高一貫校に対して、歴史的視点を踏まえながら「必要だけれども良ではない」という観点からお話しをいただきました。制度を鳥瞰する視点と、個々の子供への教育を見つめる視点からお話しをいただき大変学びになりました。また東日本大震災では都内の学校が「避難所」としてどのように活用されたのか?そしてそこにはどんな問題点があったのかをこれまで報じられることのなかった視点でお話しいただいたことは貴重なことでした。避難所は「避難所と地域が一体になって運用することではじめて効果が発揮される」ことが今回の経験では浮き彫りになりました。貴重なお話しありがとうございました。

次回の教育講座は5月28日(土)に開催されます。お楽しみに。

(2011年5月7日 香山英司)

以上